【考察】『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』はKiRaReの成長物語なのか

こんにちは.timp.です.

久しぶりに良いなと思うアニメを見た気がします.初めは女児向けアニメくらいの気持ちで見ていたのですが,最近「リステDDってどんな話だったっけ」と思い返すうちに,意外と内容が深かったのではないかと思い,思わずノベルゲーム版を読みました.3rdライブ参加を目前に,思ったことをまとめておこうかなと思います.

*アニメ版とノベル版のネタバレを含みます.





あらすじ

5月,中学1年生の式宮舞菜は稀星学園高尾校に転校してきた.舞菜は姉の式宮碧音に憧れ,「いつか一緒にアイドルになる」ことを夢見て本校に入学したが,他人と戦うことを恐れ,逃げ出してしまったのだった.舞菜は「もう人前で歌ったり踊ったりしない」と決めていたが,謡舞踊部に迷い込み,月坂紗由に出会うことで,もう一度歌い踊ることを決意する.その後謡舞踊部は部員を集め,アイドルの大会であるプリズムステージの東京予選決勝にKiRaReとして登り詰めるが,碧音の率いるステラマリスと戦い,敗れてしまう.


考察

リステの物語のメインテーマは「もう一度ステージに立つ」ことであるのは疑いようがないでしょう.しかしこの物語のもう1つのテーマに「家族」があり,式宮姉妹,月坂紗由,オルタンシアの物語に共通してモチーフとして取り入れらています.


式宮姉妹と月坂紗由のストーリーにおいて「家族」は,一般的な温かいモチーフとしてではなく,むしろ戦い倒さねばならない相手として描かれていました.式宮舞菜のアイドル観の変遷,舞菜が碧音に立ち向かうこととなった経緯をもう一度確認します.

舞菜は初め,プリズムステージに消極的でした.舞菜にとってアイドルの目的は「大切な人と歌ったり踊ったりすること」で,大会で戦うことは本質ではなかったからです.


舞菜「私はただ,月坂さんと歌ったり踊ったりしたくて入部したっていうか」
( #2「完全にミジンコ」)



ノベル版の式宮舞菜はアニメ以上に,戦うことから逃げてきたこと,アイドルが戦いであることに疑問を感じていたことが述べられていますね.


舞菜「やっぱり私たちはずっと,誰かと戦わなきゃいけないのかな」



7話で東京地区大会予選で舞菜が逃げ出してしまうのも,姉の碧音と出会い,自分達がライバルであることを再認識してしまうからでした.


碧音「確かに私たちはライバルね.でも私嬉しい.どんな形でも,まーちゃんと同じステージに立てるのが」
( #7 「先輩とはいえ少し黙らせるべきか」)



そんな舞菜のアイドル観を変えたのは他でもない月坂紗由でした.大会を逃げ出した舞菜を呼び戻すために紗由がかけたノベル版の以下の言葉,「アイドルを目指すってことは,きっと戦いなんだね」は,あまりにも強烈でした(アニメ版ではカットされてました).リステの物語がKiRaReを主軸に置く以上,7話のこのシーンは限りなく "美しく" 描かれていましたが,紗由のこの言葉は舞菜にとって酷な宣言だったと思います.それでもこれこそが月坂紗由のアイドル観であり,彼女の背負ったバックグラウンドの現れであり,物語上大事なセリフでした.


紗由「舞菜,アイドルを目指すってことは,きっと戦いなんだね」



式宮舞菜は紗由のこの言葉に感化され,さらにもう一度ステージに登ること,姉に立ち向かうことを決意します.そしてKiRaReは大会に優勝すること,さらに言えばステラマリスに勝利することにどんどん傾倒していくことになります.




これと対照的な位置にいるのが,オルタンシアです.彼女達は姉妹同然の親戚2人組で「同じステージに立つこと,楽しむこと,勝負にこだわらないこと」に終始主眼を置いていました.


陽花「プリズムステージに出場するのも,たくさんの人の前で紫ちゃんと踊れるから.みんなの前で思いっきり楽しみたいなって」
紫「勝ち負けも大事だけど,私も陽花とずっとずっと楽しみたい,それが私たちの夢だね」
(#6 「紫ちゃんは私のおばさん」)



オルタンシアは,この物語全体のアンチテーゼとして,Re:ステージがおそらく最も伝えたかった(と僕が思う)アイドル観,「同じステージに立つこと,楽しむこと,勝負にこだわらないこと」を示しています.敵ユニットに物語で一番伝えたかったメッセージを言わせたのは,熱いですね.

すなわちオルタンシアは,同じ道を目指しながらどこかですれ違ってしまった式宮姉妹が至れなかった境地であり,理想であり,ひょっとしたらありえたかもしれない世界を地で描いているのです (もしそうでなければ,オルタンシアがトロワアンジュやテトラルキアと比べて物語上ここまで優遇されることもない気がするのです).


ED「憧れFuture Sign
舞菜の手を引く碧音の写真と,直後フィルムに分断され色褪せる二人





これらをまとめてリステの物語を一言で表すならば,もう一度ステージに立つことを決めた少女が,それと引き換えに家族と決別していく話,なのではないかと僕は考えています.

式宮舞菜は,KiRaReを手にし,もう一度ステージに立ったことと引き換えに,式宮碧音と一緒にアイドルになるという夢を失ってしまったのではないでしょうか?


舞菜「お姉ちゃんと踊ってる時も,みんなと踊ってる時も,同じようにワクワクして,楽しくて.けどただ1つだけ,お姉ちゃんと踊ってた時には思わなかったことがあるんです.もっともっと,ここより先の景色を見てみたいって.」
( #8 「ノーギャラなんかでやってられない」)


舞菜「あのね,お姉ちゃん,私これからもずっと高尾校にいるよ.私小さい頃からお姉ちゃんに憧れて,ずっとその後ろを追いかけて,一緒にアイドルになるって夢見て,本校にも入学できた.でも,辛くなって結局逃げちゃって.もう夢なんて忘れてたはずなのに,高尾校でみんなに出会って,もう一度夢を追いかけたいって思った.また逃げ出しちゃった時もあったけど,みんながいてくれたから今度は頑張ることができた.ちゃんとステージに立つことができたの.だから,私はお姉ちゃんのところには戻らない.KiRaReのみんなと,これから先の景色が見たいの.」
( #10 「戦闘力がどんどん上昇している」)




僕にはこの決断が式宮舞菜にとって本当に幸せなものだったのか,いまだにわかっていません.

プリズムステージは,KiRaReが優勝してもステラマリスが優勝しても,式宮姉妹は救われなかったのではないかと思います.二人が救われる唯一の方法は,式宮舞菜が最初に本校を辞めず,ステラマリスに加入していることだったのかもしれないと思うと,この物語は悲しい物語のような気がしてならないのです.

この点でRe:ステージの物語は,単にKiRaReあるいは式宮舞菜の成長物語ではなく,むしろ ”Re:ステージ” することで式宮舞菜が失っていったものに焦点が当たった,影のあるアイドル群像劇である点に魅力があると思います.

ポップでキュートな絵柄,キラキラな楽曲,どこまでも前向きな歌詞からは想像もできなかったストーリーの作り込みに感服です.恐れ入りました.